SDGs(持続可能な開発目標)への取り組み

 弊社は、神棚・神具の企画・販売会社として、自社で商品の開発・企画を行い、製造委託会社で生産した商品をオリジナルブランド「神棚の里」として販売しています。
 また、神棚の国内生産にこだわり、製造は国内の木工加工業者に委託するほか、発注の平準化や利益の適正配分など、製造委託会社と WIN-WIN の関係を構築することで、サプライチェーンの維持に注力しています。
 今回、弊社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価頂きました。

環 境 面 ・CO2 排出量の削減(LED 照明や低燃費自動車への移行など、省エネ活動による CO2 排出量の削減)
・国内産榊の調達強化(県内茶農家とも連携し、県内産榊の調達による 農業活性化)
社 会 面 ・生き生きと働きやすい労働環境(女性が活躍する職場づくり、従業員に 権限を委譲した全員参加のフラットな職場の醸成など)
・安心安全な職場環境(安全衛生活動の推進、業務効率化による作業 負担の軽減)
経 済 面 ・現代社会と神棚との融合(現代の生活にフィットした「モダン神棚」のパイオニアとして、他企業との連携による商品開発や神事文化の発信を行い、日本文化の継承に努めている)
・潜在顧客へのアプローチ(オンラインショップや直営店を通じた新たな 販路の開拓、神社とのつながりによるブランド力の構築)

静岡経済研究所によるポジティブ・インパクト・ファイナンス評価

 静岡木工のサステナビリティ活動のうち、ポジティブ面のインパクト領域としては、新人研修やコーチングスキルなど人材育成制度の充実、吉田町と連携した小中学生向け職場体験や大学生向け講義の実施などが「教育」や「包括的で健全な経済」、「経済収束」に該当するとともに、女性が責任ある立場で活躍でき、かつ従業員に権限を委譲し、全員参加のフラットな職場を醸成していることが、「雇用」や「包括的で健全な経済」に該当する。
 また、現代の洋間中心の住環境にフィットした「モダン神棚」のパイオニアとして、他企業と連携し、地域資源も積極的に活用した商品開発への取組みと、潜在顧客へアプローチするために、オンラインショップや直営店・ポップアップストアなど新販路を開拓したり、神社と連携したりすることで、神棚・神具の提供だけでなく、神事文化の発信者としての役割も担っていることが、「経済収束」や「文化・伝統」に資すると評価される。
 また、国産材を安定的に調達することで、国内の林業の維持と、それに伴う森林保護に寄与しているほか、県産榊の調達による農業活性化への挑戦は、「生物多様性と生態系サービス」への貢献が認められる。

 一方、ネガティブ面においては、交通安全や倉庫・作業場のロケーションの最適化など安全衛生活 動の推進、管理システムの開発・導入による作業負担軽減やそれに伴う残業時間の削減は、「雇 用」や「健康・衛生」に該当する。また、LED照明や低燃費車への切り替えなど省エネ活動の推進 は「気候」に、端材の有効活用や廃棄物のマニフェスト処理は「資源効率・安全性」、「廃棄物」などに該当し、環境面での取組みも進めている。そして、企画・販売に特化する同社は製造委託会社との親密な関係構築が不可欠となるが、協力企業の技術伝承、生産平準化、利益の適正配分、 品質向上など、サプライチェーンの維持に細心の配慮をしており、「経済収束」の観点でネガティブ・インパクトを低減していると評価できる。


インパクト評価プロセス

 国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が(株)日本格付研究所の協力を得て評価

モニタリング体制

 一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内 部管理体制のもと、インパクト評価で特定したKPIについて、融資期間中における借入人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施

地域課題との関連性

①「第5次吉田町総合計画」との関連性

 吉田町は「第5次吉田町総合計画後期基本計画(2020~2023 年)」の第3章で、「活力あふれる産業振興のまちづくり」として雇用・就業対策を打ち出している。この中で、インターンシップ参加者受入企業の開拓やインターンシップ参加者数を目標に掲げ、雇用機会が創出された働き やすいまちを目指している。また、第 5 章では「次代を担う心豊かな人を育むまちづくり」として地域 教育にも取り組み、地域教育推進事業への参加者数などを目標値として設定している。さらには、第 6 章で「豊かな自然と共生するまちづくり」として地球温暖化防止対策にも挑戦し、住民や事業者が主体的に温室効果ガスの排出削減に取り組んでいるまちを目指している。
 静岡木工が進める新卒採用におけるインターンシップの実施や、仕事体験イベント「伝」への参加 など地域の子供たちへの教育活動、LED照明や低燃費車への切り替えなど CO2 排出量の削減などの取組みは、こうした吉田町の総合計画に貢献している。

②「第2期吉田町まち・ひと・しごと創生総合戦略」との関連性

 全国的に人口減少が課題となる中、吉田町においても、2045年の人口は 28,383人(現在:29,110 人)、生産年齢人口は 12,128人(同:17,186 人)と見込まれている。このような生産年齢人口減少、少子高齢化といった課題に直面している吉田町では、生産年齢人口減 少の克服と地域の自立的かつ持続的な活性化に向けた「第2期吉田町まち・ひと・しごと創生総 合戦略」を2020年2月に策定した。
 基本目標として、「『津波防災まちづくり』による安全・安心な町土を形成する」、「本町における安定した雇用を創出する」、「本町への新しいひとの流れをつくる」、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」、「本町にひとが集い、安心して暮らせる魅力的な地域をつくる」の5つを掲げ、具体的な施策と KPI を設定している。たとえば、雇用創出策として大学と地域との交流促進を図るほか、女性が活躍できる社会をつくるため、子育てしやすい環境の整備やワーク・ライフ・バランスの意義・重要性の啓発を進めるとしている。
 静岡木工は、大学等での講演を積極的に受けているほか、女性比率が高く、休暇の充実や残業時間の削減などにも注力するなど、働きやすい職場環境を作り出している。UI ターンの受け皿として地域の雇用を創出することで、吉田町の活性化に貢献している。

③「静岡県産業成長戦略 2022」との関連性

 静岡県は 2022 年2月、「静岡県産業成長戦略 2022」を公表した。基本理念・目指す姿として「東京時代から静岡時代へ~新しい生産と消費の循環で SDGs を達成~」を掲げ、供給面では「DX と脱炭素への積極的な投資」を促進するとし、次の8つの施策を展開している。
 この中で、(4)新たな生活様式を踏まえた個人消費の拡大において、「新たな生活スタイルにフィットする静岡 style を創出」や「全国ECサイトと連携したブランド力強化」を推進することで、県産品を活用した新商品開発・販売や魅力発信などが盛り込まれている。
 また、(8)中小企業の事業継続に向けた強靭化では、「人材の確保・育成」の重要性が謳われており、移住・UI ターンの促進や在職者訓練によるスキルアップを打ち出している。
 このような静岡県の産業成長戦略は、静岡木工の事業活動と方向性が一致しており、特に木材や繊維、農産物など地域資源の活用において、地域における存在感の高まりが期待される。

環境面での活動

① 省エネ活動による CO2 排出量の削減

 静岡木工では、自然環境への負荷低減に配慮しており、自社の企業活動で排出される CO2 排出量の削減を徹底している。
 倉庫や事務所、自社店舗の照明はすべて LED 照明に切り替えたほか、5 台ある営業車両のうち 1 台を HVに、同じく5台あるフォークリフトのうち1台を電動フォークリフトに切り替えた。今後も更新時期に合わせて低燃費車や電動車への移行を進めていく。また、倉庫間の輸送ルート・頻度 の改善や営業のオンライン化推進によって、車での移動距離を極力減らし、ガソリン使用量の削減 に努めている。
 今般計画している新社屋への倉庫・作業場の集約によって、倉庫間輸送がなくなるとともに、フォークリフトの保有台数減少(5台→3台)も計画しており、ガソリン使用量は大幅な削減が期待される。

② 廃棄物の削減及び適正処理

 自社で排出される廃棄物に関しても、紙、段ボール、木材、PP バンド、ビニールなど、資格を有する廃棄物処理業者に委託して適正処理を徹底しているほか、会議や勤怠管理をオンライン化するなどペーパーレスを推奨したり、使用済みラップを製品の梱包材として再利用するなど、廃棄物量の 削減にも注力している。なお、廃棄物に関しては、マニフェスト処理を実施している。
 製造工程で発生する木材の端材についても、製造委託会社と連携して、工作キットとして商品化したり、ボイラー燃料としてサーマルリサイクルすることで、有効活用している。神棚に使用できる木材は、節や虫食い等のない部分に限定されてしまうため、設計を工夫することで歩留まり率を上昇させるとともに、品質向上による不良品削減に取り組んでいる。なお、静岡木工では今後、自然への 崇拝や自然を楽しむというコンセプトで、これまでタブーとされていた木の節をそのまま使った商品開発にも挑むとしており、木材の有効活用をさらに進化させる方針である。

③ 国産材の安定調達で森林保護に貢献

 静岡木工では、一部メイプル材やウォールナット材などの洋材を使うことで、洋間に合わせたモダン神棚を販売しているものの、同社が取り扱う神棚の約8割は、日本のヒノキや杉を使い、国内の職人によって作られる“純国産”である。
なかでも、「木曽桧神棚」シリーズは、日本を代表する木材として知られる天然の「木曽ヒノキ」を使用している。この天然木曽ヒノキは、すらりと伸びる性質、木材の肌目の美しさ、優れた耐久性や抗菌性など、伊勢神宮をはじめ古くから重要な建築物などに使われ てきた最高級の木材である。現在、木曽の森林は国有林として大切に管理され、年間の伐採量を一定に保つため伐採制限が設けられ、後世にわたって大切に育まれている。また、「かみさまのたな」シリーズは、静岡の安倍川上流のヒノキを使用しているほか、「神杉の木霊」は、遠江国一宮 小國神社の神域で育った「神杉」を、職人がひとつずつ丁寧に仕上げている。
 これら国産材は、各地の森林組合が管理している木材がほとんどであり、違法伐採等の懸念はない。
静岡木工では、こうした国産材を安定的に調達することで、国内の林業の維持と、それに伴う森林の保護に貢献している。また、自社の HP や製品カタログ等で、神道文化と森林との関わりを発信し、森林や自然に対する感謝や敬意、共存の必要性を伝えている。

④ 県産榊調達による農業活性化

 静岡木工では、神棚に添えられる榊の国内調達にもこだわっている。国内で流通している榊の多くは中国産であるが、静岡木工では八丈島産の榊を仕入れ、冷蔵庫で適温保存し、鮮度を保って 出荷している。国内産の榊は、葉が揃っており色艶も良いこと、収穫から仕入れ・出荷までの日数が 短く、出荷後に日持ちがすることなどが特長で、消費者からの国産ニーズも根強い。
 後述するように、同社では今後、榊の販売強化に注力する。需要を満たすだけの榊を安定的に調達するために、八丈島だけでなく静岡や和歌山などからの調達も模索している。より近い産地から調達できれば、輸送による CO2 排出量やコスト削減にもつながり、環境面・経済面での効果が期待できる。
 特に静岡県では、近年、茶葉の需要減少を受けて、茶農家が他の作物へ転換する動きの一部として、榊生産に乗り出す農業者も見られるという。静岡木工では、こうした農業者と連携することで、静岡県内産の榊調達に取り組み始めており、国内有数の大茶園地である地元牧之原をはじめ、県内農業の活性化にも資する取組みとして評価できる。

社会面での活動

① 女性が活躍する職場

 静岡木工は、従業員36名のうち7割を占める24名が女性と、圧倒的に女性が多く、直営店の
店舗スタッフや、オンラインショップの運営、倉庫における梱包・発送などの物流・品質管理、経理・ 総務など、幅広い業務に携わっている。女性の管理職は3名(部・課の統括者)と男性の2名に比べても多く、女性が責任ある立場で活躍している。
 女性に限らず、子育てや介護・看護など家庭の用事を優先できるよう、時短勤務や休暇制度を 充実させており、かつそうした制度を活用しやすい雰囲気の醸成に努めている。また、グループウェアによる情報共有を推進することで、朝礼や会議など決まった時間に出勤しなくてもいいように、フレキシブルな労働時間の設定も実現している。なお、年間の休日数を109日から120日に増加したほか、 2021年度の全社員の有給休暇取得率は平均67.3%と、休暇取得も推奨している。

② 従業員に権限を委譲し、全員参加のフラットな職場

 静岡木工では、従業員への権限移譲が進んでいる。少数精鋭で、多岐にわたる業務をスピード感を持って遂行しなければならないため、部署横断的なプロジェクトチームを組成し、各自の得意分野・専門分野を持ち寄って、課題解決、顧客満足度向上、企業成長につなげている。直近では、商品開発PT、広報PT、新卒採用PT、品質向上PT、新システム導入PTなどが組成されたが、こうしたプロジェクトチームは業務として浸透した段階で発展的に解消し、新規に部や課として昇格させ たり、既存の部や課に吸収するなど、機動的な取扱いとしている。
 これは、事業拡大に伴って、直近3年で雇用を大幅に増加させたことが背景にある。同社の募集に呼応する形で、アパレル業界で広報を担当していた人材や、コピーライター、ネットショップ経営、システムエンジニア、小売店のバイヤー、接客業、巫女など、専門的なスキルや経験を持った人材が数 多く入社しており、こうした人材の提案を採用し、裁量を持たせることで意欲を発揮させ、会社の成 長につなげている。このような人材は、本人や配偶者の実家に戻ってくるタイミングで応募するケース が多く、同社は当地におけるUIターンの専門人材の受け皿としての役割も担っている。

③ 新卒採用と人材育成

 静岡木工では、総務部や新卒採用プロジェクトチームが中心となり、インターンシップの実施、オンライン会社説明会の開催、地元大学における講義、HPの採用コーナーの充実など、新卒採用に向 けた取組みを活発化させている。将来の幹部候補生として、2023年及び2024年4月の入社にお いて、大学卒の新卒2名の採用を目標としている。これに伴い、外部の専門的知見を取り入れなが ら、新人研修など社内で必要な知識、技術、ノウハウを習得させるための人材育成制度やキャリア開発プラン、作業マニュアルなどの整備を進めていくとともに、給与テーブルや昇格・昇進の条件設定など公平な人事評価制度の構築にも着手している。加えて、外部講師を招聘し、管理職5名を対 象としたリーダーシップ研修を実施している。これにより、半年から1年くらいかけて、コーチングスキルなど部下を的確に導く術を習得させている。
 現状の人材育成は、部署ごとのOJTによる育成が中心となっているほか、オンラインショップの運営 やシステム開発などの担当者が外部セミナーに参加したり、店舗スタッフが神社検定を受験するな ど、自発的なスキルアップへの補助制度を充実させている。

④ 安全衛生活動の推進

 静岡木工では、従業員が安心・安全に働ける環境整備にも努めている。交通安全については、交通安全管理者を選任し、講習会への参加や社内への呼びかけによって、交通ルールに関する意識を高めている。また、物流部が中心となって、倉庫や作業場の5S を徹底し、ロケーションの最適 化に取り組んでいるほか、季節や天候に応じた空調管理によって快適な作業環境を実現している。 特に夏場の倉庫における検品・梱包・出荷作業等においては、熱中症対策を徹底し、ウォーターサーバーやコーヒーメーカーを設置することで脱水症状の回避に努めている。こうした安全衛生活動の 推進によって、静岡木工ではこれまでに、業務上での重大な人身事故は起きていない。

⑤ 業務効率化による作業負担の軽減

 初詣で神札を新しく購入するのに合わせて神棚や神具も新調するケースが多いため、静岡木工の出荷・販売業務あるいはそれに伴う商品管理業務は、年末年始に集中する。特に 12 月は毎日 23 時まで残業し、土日出勤も恒常化するなど、従業員の負担感が高まっていた。そこで、物流システム部が中心となって、発注から入荷、在庫管理、受注、出荷、請求、資金回収に至るまで、すべ てを一括管理できるシステムを開発・導入することで、事務負担の軽減と作業の平準化を進めている。それに合わせて、物流部では出荷におけるピッキング作業の効率化、輸送体制や倉庫配置の見直し、応援体制の強化等も実施し、12 月の繁忙期において残業ゼロを達成した。
 今後は、新システム導入プロジェクトチームで、社内で利用している現システムの問題改善、生産性を向上させる新システムの検討を行い、さらなる業務効率化、生産性向上、従業員の負担軽減 を目指している。具体的には、CAMMACS の導入を検討しており、見積りから、受注、納品、請 求、入金管理までを一括管理することで、経理業務や総務業務の負担軽減が期待され、現在 10.3 時間の一人当たり月間残業時間の削減を目指している。

⑥ 地域の子供たちへの教育活動

 静岡木工は、創業以来 60 年にわたって吉田町を本拠地としており、地元の企業や住民、自治体等との結びつきも深い。従業員の多くが町内やその近隣市町の出身、あるいは配偶者がその出身であり、地域住民からの信頼醸成は将来的な雇用確保に不可欠と認識している。また、地元の自治体や企業との連携は、知名度やブランド力の向上、新ビジネス創出につながるものであり、今 後も様々な場面での協働を模索していく。
 地域とのつながりにおいて具体的な行動としては、まず吉田町と連携した教育支援活動がある。 町立保育園の園児を招いた紙芝居、貯金箱づくり体験や、吉田町が主催する小学生向け仕事体験イベント「伝」への参加、地元中学生の職場体験の受入れなど、地域の子供たちに対してものづくりの面白さや働くことの意義を伝えるとともに、地元への愛着心の醸成に一役買っている。こうした活動は営業部を中心とする従業員が率先して企画を考え、子供たちがより興味を抱くような内容となっている。
 このほか、吉田町の防災協力会に参加したり、特別支援学校の生徒を実習生として受け入れたり、本社敷地内にある「神棚の里 本店」で季節のワークショップを開催して地域住民の交流の場を 創出するなど、様々な視点・発想で地域とのネットワークづくりを推進している。

⑦ 経営者、大学生等への自社取組みの展開

 県内の自治体・支援機関や大学等からの依頼による、経営者や大学生等に対する講演講師やディスカッションへの参加の機会も多い。社長や専務が自社の取組みを紹介するケースがほとんどだが、なかには営業部所属の女性社員が、就職活動を控えた大学生に対して仕事と家庭の両立や 仕事のやりがいについて説明するなど、従業員にも参加を促している。2021年度には、地元の常葉大学造形学部の学生の卒業制作もサポートした。
 こうした依頼に積極的に対応し、自社の取組みや経験を惜しみなく紹介することで大学等とのつながりもでき、採用活動にも効果が現れている。

経済面での活動

① 現代の生活にフィットした「モダン神棚」のパイオニア

 静岡木工は、現代の洋間中心の住環境にフィットし、自然な気持ちで神様を拝することができる「モダン神棚」のパイオニアである。2013年、フローリングや家具などに使われるメイプル材やウォールナット材などの洋材を原材料とし、神棚板を必要とせず、神棚自体が壁に掛けられる構造を採用し た、シンプルでスタイリッシュなモダン神棚「kaede」と「kurumi」を発表。その後、静岡市のデザイナー花澤啓太氏とコラボレーションすることで、2016年に、丸みを帯びた優しいデザインの「かみさまのたな」を、2018年に、線で輪郭をシンプルに構成した「かみさまの線」を開発した。この2商品は、その優れたデザイン性から、それぞれその年のGOOD DESIGN賞を受賞したほか、若い女性やマンション居住者など、従来なかった新たな顧客層を獲得した。
 このモダン神棚開発の背景には、「私たちは、お客様の『想い』を大切に、心を込めた品物で、お客様の心安らぐ生活のお手伝いをします」という、静岡木工が最も大切にしている経営理念があり、神棚にまつわる既成概念や先入観にとらわれず、新たな視点や発想で、常に顧客のニーズに柔軟に対応すべく製品開発に取り組んできた経緯がある。同社では、直近の第39期経営指針書においても「不易流行」を経営方針に掲げ、神札を丁寧に祀るという精神や伝統・素材・技術といった昔から 続くものを大事にしながら、新しい時代にも受け入れられる商品開発に取り組むとしている。

② 他企業との連携による商品開発

 静岡木工は、商品開発において、地域の企業との連携に注力している。たとえば、「かみさまのたな」は、静岡市のデザイナーのほか、材料には同市内を流れる安倍川上流のヒノキを使用、挽き物 や漆塗りも市内の職人に依頼するなど、“オール静岡”の技術を結集させた。これにより、経済産業省の地域未来牽引事業計画にも採択されている。
また、近年は神具開発においても、県内企業とのコラボレーション商品を相次いで発表している。2021年9月には、「清めの盛塩 八角」シリーズの新商品として「ゆず」を発売。コロナ禍で、お清めのニーズが強まり盛塩の需要が増える中、静岡県川根本町の特産品であるゆずの粉を使用して風 水で喜びを呼び込むと言われる黄色に仕上げた盛塩を、地元企業の(株)KAWANE SENSEと共同開発した。さらに10月には、浜松地域の伝統産業である綿織物を手掛ける「遠州綿紬 ぬくもり工房」と共同開発した新商品「お祀りマット」を発売。当商品は、神棚を祀る際に「神具の置き方や置く場所がわからない」、「神棚の下に敷くものが欲しい」といった顧客の声から開発したもので、米、塩、 水、神酒、榊の配置場所をわかりやすくイラストでイメージしている。

③ 神棚販売から神事文化発信へ

 静岡木工が次に目指すのは、神棚や神具の企画・販売会社にとどまらず、神事や神道文化を発信することで、神事業界・神事文化発信のリーディングカンパニーとなることである。モノからコトへ、そしてココロへと消費の形態が変わる中、神棚や神具の提供から、祀り方の情報発信、そして神様を 祀る気持ちの醸成と、消費者への訴求方法を見直すことで市場の拡大を図っている。実際、参拝 時の作法や神具の魅力を発信する動画を自社のHPで配信したり、神社検定(神道文化検定) の資格を有する店舗スタッフが、神具の意味や祀り方を伝えたりして、日本の伝統的文化である神 道文化の継承に努めている。

④ 神饌セットの販売強化と国産榊の安定調達

 静岡木工では、神事文化発信事業の一環として、神様に献上する食事である神饌(米、塩、お神酒など)や神棚に祀る榊などの販売を強化していく。第39期経営指針書においても、「神饌セット(米、塩、お神酒、榊)」の提供に取り組むとしており、またこうした神饌や榊は定期的に交換するものであることから、サブスクリプションをイメージした定期便事業の拡大も図る。
 同社では、伊勢の米や赤穂の塩などを使った神饌商品を取り揃えているが、今後特に注力していくのが榊である。同社が取り扱う国産榊は好評で、平均月500セット(2束で1セット)の販売のほとんどが定期購入者であるが、調達難からすべての需要に対応できていないのが現状である。そのため、現在の八丈島だけでなく、和歌山や前述の静岡など調達先を拡大することで良質な国産榊 の安定調達の実現を目指していく。このように、神棚や神具だけでなく、神様を祀るために必要なあらゆるものを提供できる体制を構築していく。

⑤ オンラインショップや直営店など新販路の開拓

 静岡木工では、神道文化のさらなる浸透や神棚・神具市場の拡大に向けて、若者や子供・学生など新たな顧客層の開拓にも取り組んでいる。まず、楽天市場、yahooショッピング、Amazonなどにオンラインショップ「神棚の里」を開店し、インターネット時代に即した販売手法を確立してきた結果、オンライン販売の割合は約3割にまで伸びている。商品レビューやショップレビュー件数も大幅に増え、2020年度は月間優良ショップを3回受賞した。
 なお、こうしたオンラインショップを展開するに当たっては、情報セキュリティ対策も欠かせない。同社ではサイバー保険に加入して損害賠償等への対策を講じているほか、こうした保険の付帯サービスとして保険会社が実施する研修会や不正メールへの対処方法といった実地訓練などを活用することで、従業員の情報セキュリティ感度を高めている。加えて、管理者と使用者の権限レベルを区別したり、営業部EC課と物流部受注課の一部の担当者のみにアカウントを与え、定期的なパスワード変更とログ管理を徹底するなど、システム管理体制の強化も図っている。
 また、直営店を、若者が集まる渋谷や文化の発信地である日本橋など、東京、静岡に4店舗出 店するほか、ポップアップストア(期間限定ショップ)を機動的に出店し、新商品のテストマーケティングやブランド認知度向上、オンラインショップへの誘導などに有効活用している。
 そのほか、「東京インターナショナル・ギフト・ショー」などに出展することで雑貨店などのバイヤーとの接点を拡充したり、店舗責任者に巫女経験者を配置して顧客の相談に的確に対応できる体制を整えたり、2021年度には新たに営業開発部を発足させ、店舗の商品陳列やポップなど売り場提案 を充実させるなど、顧客との接点や発信力の強化にも注力している。

⑥ 神社とのつながりによるブランド構築

 静岡木工は、遠江国一宮 小國神社をはじめとする全国の神社とも連携している。小國神社とは、2016年から共同で、「小國神社と人と暮らしとかみのたな展」を同神社の境内で毎年開催しており、神事に関する展示や神札の祀り方、祈祷の風習などの解説とともに、神棚・神具の展示販売を実施している。また、2021年には、神社の屋根工法「檜皮葺」をテーマとした「夏と檜皮と小國神 社展」を開催。小國神社で2020年から4年の歳月をかけて行われている“令和のお屋根替え”に 時期を合わせ、日本が誇る伝統工法の文化的価値を再確認するとともに、暮らしの神棚・神具の物販エリアも設けた。なお、檜の立木から樹皮の檜皮を剥ぎ取り加工する技術「檜皮採取」と、樹皮や板を用いた日本の伝統的な屋根葺きの技術「檜皮葺・杮葺き」は、2020年にユネスコ無形文 化遺産に登録された。小國神社には、こうしたイベントでの展示販売のみならず、参拝者休憩所に 「神棚の里」特設展示ディスプレイを設置している。
 そのほかの神社とも、神札を購入した参拝客に同社の神棚・神具の紹介チラシを配布したり、神 社の授与品を同社が製作するなど、現在、全国約40の神社と連携して、神道文化の発信に努めている。
 また、神社本庁の広報誌である「まほろば 第60号」(著者・編者:神社本庁、出版社:神社 新報社、2022年4月1日発行)で、「暮らしを彩る 神棚のかたち」として同社の商品が見開き2頁にわたって紹介されている。

⑦ 製造委託会社と WIN-WIN の関係を構築

 神棚・神具に対する顧客からの要望として最も多いのが「安心」であり、品質へのこだわりや根強い国内産へのニーズに対応すべく、静岡木工では、そのほとんどを国内の製造委託会社に発注している。縁起物でもある神棚・神具は見た目のきれいさが重要となり、木材の節や虫食い、あるいは寸法の狂いや反り、ボンドのはみだしなどは嫌われる傾向にある。材料となる木材の選定から保管・乾燥、製図、加工、組立てまで、一つひとつ手作業で行うことから卓越した技術力が必要であり、その 技術の伝承も、静岡木工にとっては不可欠な要素となる。
 そのため同社では、サプライチェーンを維持すべく、製造委託会社の事業継続に注力している。需要の増減に関係なく、年間発注計画を年度初に提示し計画通り受け入れることで、生産の平準化に貢献しているほか、販売価格の維持・上昇に努め、そこで得た利益を適正に配分し、製造委託 会社と WIN-WIN の関係を構築している。

⑧ 品質向上への取組み

 製造委託会社と協力して、品質向上や品質管理にも力を注ぐ。物流部や品質向上プロジェクトチームが中心となって、品質説明会を年に 1 回、品質会議を月に 1 回開催し、顧客からのクレームや不良率のデータなどを製造委託会社と共有し、改善策を話し合う。また、不良発生の最大要因でもある木材の乾燥不足に対しては、製造委託会社や木材加工業者とも連携して、含水率を製材時から計測し記録することで、製品仕上がり時の歪みによる不良品発生を回避している。
 自社においても、入荷時検品の徹底、不良リストの作成、改善方法の見える化、保管時の品質管理など、最高の状態で納品できる体制を構築している。

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