モダン神棚開発秘話 – 静岡木工の歴史と転機、モダン神棚の開発に至るまで

現代の洋間中心の住環境にもフィットし、
自然な気持ちで神さまを拝することができる「モダン神棚」。
誕生に至るまでには、いくつかの転機、大きな紆余曲折がありました。

モダン神棚開発秘話

変わらない経営理念

「私たちは、お客様の「想い」を大切に、
心を込めた品物で、お客さまの心安らぐ生活のお手伝いをします
(静岡木工 経営理念より)

いつも立ち返るのは、この経営理念。
開発者のひとりであり弊社代表でもある 杉本かづ行に、これまで語られることのなかった開発の秘密について迫りました。

モダン神棚

[ 目次 ]

  1. 初代 杉本可六 – 船大工が始まり
  2. 二代目 杉本頼則 – オンラインショップ開店 価格競争からの脱却
  3. オンラインショップの手応え -お客様のレビュー
  4. 三代目 杉本かづ行 – 神棚への集中と経営理念
  5. モダン神棚1 – 箱宮神楽とモダン神棚誕生
  6. NHKのテレビ取材で「モダン神棚」に注文が殺到
  7. 遠江一宮小國神社との縁 – 「不易流行」
  8. モダン神棚2 – かみさまのたな
  9. モダン神棚3 – かみさまの線

初代 杉本可六 – 船大工が始まり

「海に近いこの吉田町で、船大工をやっていた祖父が始まりです」
まずは静岡木工の成り立ちを

 静岡木工の創業は、昭和36年に、初代杉本可六が木工会社を立ち上げたことから。
もともと吉田町で船大工をやっていた腕を活かして木工所を立ち上げた杉本可六は、家庭用の木製品をはじめ、木工に対する依頼にすべて応える技術を持っていました。つまり最初から神棚に特化したわけではなく、神棚も依頼制作の品々に入っていた、というのがスタートです。
具体的な年数ははっきりしませんが、少なくとも、かれこれ40年は神棚に携わっている会社です。
2代目杉本頼則の時代、時は高度経済成長期、ホームセンターとの取引が始まります。
そこで静岡木工を悩ませたのが価格競争でした。
近くの競合店より1円でも安くチラシに載せたいのが、販売店側の偽らざる気持ち。それは、神棚を卸す静岡木工にもちろん影響しました。
営業に出かけても、取引先の販売店から言われるのは圧倒的に価格のこと。品質やこだわりよりも、「同じようなものだったら、価格勝負で」。そのオーダーに応えるべく、徹底してコストカットした商品を追求していました。
初代 杉本可六

二代目 杉本頼則 – オンラインショップ開店 価格競争からの脱却

「オンラインショップ開店は先代社長の先見の明であり、苦肉の策でもあります」
価格勝負の卸業から品質を追求する小売業への第一歩

 取引先からのコストカットに応えるスタイルはどうしても業績の悪化も招きました。価格を上げなければ利益は生まれない、でも、価格を上げたら競合他社に仕事を奪われてしまう……。そんなジレンマの中、インターネットの知識やノウハウは何もないまま、静岡木工は楽天市場にオンラインショップ「神棚の里」を開きました。平成18年のことです。
ことの発端は、2代目社長の「これからはインターネットの時代になるぞ、やろう」というひとこと。
当時の静岡木工は、社内にパソコンが1台か2台あるだけで、ネットに詳しい人間もいない状態。オンラインショップオープンに合わせて、あわてて求人募集して、専門の社員を招き入れてどうにか対応しました。
現社長の杉本は「オンラインショップ開店は、先代の社長の先見の明とも言えるし、自分としては苦肉の策、どうにか現状を打破したい気持ちだけでスタートしたものだったとも思います」と話します。後から振り返れば、先代の社長は正しかったと言えます。オンラインショップ開店は、千載一遇の機会でした。直接、消費者と向き合うという意味で、大きな第一歩だったのです。

オンラインショップの手応え -お客様のレビュー

「神棚を買って家でおまつりすることには、特別な想いが込められています」
“神棚専門店”として、徹底してお客さんの声に耳を傾ける

 オンラインショップを立ち上げて1〜2年は、全く売れない日々。
専従の社員2名の人件費の方がよっぽど上回る月も多々ありました。オンラインショップを立ち上げたことで、会社の経営がよりいっそう苦しくなりました。
が、そこには可能性がありました。
当時のわずかな光明の一つに、オンラインショップの感想レビュー、お客さまの声があります。その声は静岡木工にとって、とても新鮮なものでした。
杉本はお客さまのダイレクトな反応に手応えを感じ、自身の日々の営業の合間を縫ってオンラインショップに携わりました。社員と一緒に、地道に。
すると少しずつ、3年目から軌道に乗り始めたのです。
今までの営業スタイルでは、卸し先にバイヤーがいて、その先の消費者は見えていませんでした。商品の欠品がないよう在庫を抱え、誤納がないか、常に気を配る日々。直接お客さまの声を聞くことはほとんどなかったのです。
オンラインショップには、いろいろなコメントが寄せられました。
いいものも悪いものもありました。
お客さまの声を直接聞くことは、喜びでした。悪いコメントには、改善点を見出しました。なんとかしてお客様に応えたい気持ちになり、社員のモチベーションが変わってきました。
同じものを作って売っていたつもりだったけれど、お客さまとの距離が縮まった分、「もっとよくしたい」、「いいものを提供したい」と、どんどん思いが強くなっていったのです。
杉本は、コメントを熱心に見るうちに気づいたことがありました。
当時はオンライン上に木工のお店と神棚のお店を分けて持っていましたが、神棚のお店の方につくコメントには「安心」という言葉が散見していたのです。
「安心」はキーワードでした。
お客さまは、神棚に関しては「安いからいい」のではなくて、「安心できるお店で買いたい」と思っている。これまでの営業の経験から、「それでも安い方がいいんじゃないか」と考えた時期もありましたが、それは違いました。
家に神棚を買ってまつるという特別感。
決して気軽なものではありません。必ず、まつる方の想いがあります。
だからこそ、安心して買いたい。神棚に満足した時は「すごくよかった」というコメントが寄せられる。「これで安心して暮らせます」と書いてくれたお客さまもいたほどです。
杉本の中に、神棚に対する特別感が生まれました。
「我々の仕事は、人の気持ちを安心させる、これほどいい仕事なんだ」。心から仕事が楽しくなってきた時期に、先代社長から代表交代の申し入れがあったのです。

三代目 杉本かづ行 – 神棚への集中と経営理念

「代表交代。社長として経営へ」
平成24年、3代目社長になり、経営理念を考えたことが一つの転機に

 苦しい状況にあった会社に、小さな兆しが見えてきたタイミングでの代表交代。2代目の父は「これからはインターネットの時代だから」と杉本にバトンを渡しました。
オンラインショップを含めた営業を熱心にこなす日々の中、銀行の担当者と話したこともなければ、資金繰りを考えたこともなく、会社を俯瞰で見渡すこともしていなかった杉本は、あわてて勉強を始めました。
多くの経営者と交わり、勉強会をする中で、突き詰めて考えたのが、「自分たちが何のために会社をやっているか」ということ。つまり、経営理念です。
答えはすぐに出ました。
「神棚を通して、お客さまの心安らぐ生活のお手伝いをしたい」。
まだ他の木製品の取扱いもありましたが、これまでの「木工品ならなんでもいい、売上げを作るためには何でも売ろう」と思う気持ちをばっさりと切り捨てました。
あまりにも違うものを同時進行でやろうとすると、ブレてしまう。
神棚を、静岡木工の本業にする。
周囲からは反対の声がありました。「やめた分だけ、売上げは下がるぞ」。
でも杉本は、この時点で他の商品の管理などに時間を割くより、神棚のことだけを四六時中ずっと考えて、お客さまの喜ぶ神棚の商品開発や企画をしていきたい、と考えるようになっていました。
売上げを伸ばす根拠は全くありませんでしたが、その切り替えの背景には経営理念がありました。

経営理念
私たちは、お客様の「想い」を大切に、
心を込めた品物で、
お客様の心安らぐ生活のお手伝いをします。

「感謝」と「祈り」に秘める
日本の「心」を受け継ぎ伝え、
平和な未来に貢献します。

静岡木工にかかわるすべての人とともに歩み、社会に必要とされる会社を目指します。

「モダン神棚」誕生

「神棚の可能性や伝えたい気持ちが非常に強くなりました」
「シンプル」を求めるお客さまの心に通じ、「モダン神棚」がついに誕生

 神棚にできることは何だろうか、本当にいいもの、さらにいいものを発信していきたい……、杉本の気持ちは逸りました。
まず手がけたことは、過去に寄せられたお客さまの声を活かして、どういう形や機能、素材が喜ばれるのかを試作、検証すること。
一式がセットになっているもの。
中にお札が納めやすいもの。
大きなお札を納められるもの。
伊勢神宮で使う木曽桧を使った高級なもの。
いろいろな声に応えて商品開発をしていく中、モダン神棚誕生のヒントがありました。
昔からあるお宮の形の一つに、神棚が箱の中に収まる箱型のお宮があります。北海道や東海・北陸地方でおまつりされることが多いため、「全国的ではない。関東では売れない」と、ずっといわれていました。
が、箱型のお宮が関東で売れ始めたのです。
今まで「神棚は地域性がある」という固定概念が社内にありました。
でも、違ったのです。
関東のお客さまの感想は「すっきりしている」というもの。
全部箱の中に収まって、従来の神棚と比べたらスタイリッシュ。これまでの神棚を見て、「ちょっと家の雰囲気に合わない」という人や、「もう少しコンパクトなものを」と希望する消費者から、とても人気がありました。
杉本は、自分たちの考えを改めなければならない時が来たと感じました。
ここのエリアはこうだ、神棚はこういうものだ、と先入観で凝り固まった考えをするのではなくて、お客さまの声に耳を傾けた商品を作ろうと思って開発したのが「箱宮 神楽」です。
神具も並べられる箱型の神棚「箱宮 神楽」は、反応がとてもよく、オンラインショップでは飛び抜けてヒットしました。
その時、杉本は、「神棚を購入しようとする人は、時間を掛けて探す」と気づきました。神棚はパパパッと買うものではない。家族と相談したり、複数の候補を挙げたり、数日迷って買うものなのです。
「箱宮 神楽」のヒットは平成24年頃です。
以来、シンプル・スタイリッシュを求める方にはおすすめしていた神棚でしたが、それでも、「まだどこかしっくり来ない」という方も少なからずいたのです。
消去法ではたどり着けない選択肢があることに気づいた杉本は、考えました。
「箱宮 神楽」は、従来の神棚から発想して、いろいろなものを削ぎ落としていって開発したものですが、まったく違う考えかたはできないだろうか。
たとえばスタートは、現代の住宅の雰囲気に合う神棚。
雰囲気に合いながらも神棚としての役割をきちんと果たし、お札を納められておまつりできる……、そのためにはどうすればいいのだろうか?
答えの一つが材質です。
神棚にフローリングや家具に使われるような洋材を取り入れました。
メイプル材やウォールナット材です。
また神棚板を必要とせず、神棚自体が壁にかけられる構造を採用し、箱宮のようにシンプルで神具も一緒にまつれる形。
これがモダン神棚の誕生の瞬間でした。

モダン神棚は、誕生から即、爆発的に売れたわけではありません。
オンラインショップで、試験的に小ロットで売り出しては、お客さまの反応を見て、改良を重ねました。
従来、お店では、欠品が生じることは絶対的なNG、常に在庫を抱えなければならないものです。
が、オンラインでは、次の入荷予定日をお知らせすれば欠品していても商売が成り立ちます。新しい神棚を購入したお客さまのレビューを参考にして改良し、次のロットを作る。杉本は毎日、お客さまの意見を知るのが楽しみでなりませんでした。
モダン神棚は、お客さまとの対話の中から生まれた神棚です。
平成26〜27年頃、ラインナップがそろい、爆発的ではありませんでしたが、楽天市場「神棚の里」で徐々に売れ始めました。
本当に少しずつです。
その時、全国区のテレビ取材がありました。NHKの『あさイチ』でした。

テレビ取材で「モダン神棚」に注文が殺到

「爆発的に売れました。メディアの力に驚き、モダン神棚にはニーズがあると確信しました」
テレビ取材をきっかけに電話が鳴り止まない、問い合わせ殺到の事態に

 NHKの番組『あさイチ』の取材スタッフから連絡があったとき、杉本はこの番組を知りませんでした。静岡木工の始業は8時半ですが、杉本の出社は毎朝7時過ぎ。『連続テレビ小説』と『あさイチ』は観たことがありませんでした。
急に取材が決まり、困ったのは、当時はインターネットにしかお店がなく、モダン神棚も試験販売の途中だったので、展示品も展示スペースも社内になかったこと。
急遽、石膏ボードとクロスを3枚貼って、テレビ取材用の展示スペースを作ったほどです。
杉本は「テレビの影響力が分かっていたら、もっとしっかりやりました」と笑います。
8時15分から約10分の放送でした。
「現代は若い女性も癒しを求めていて、このような新しい神棚も売れている」という流れに、社内でも「結構長かったよね」、「たくさん放送してくれたよね」と好評でした。
そして、いつものように8時半からインターネットと電話回線をONにしたところ、注文がダダダダッと入りました。
「えええっ!?」
社内が騒然となりました。
NHKですし、当然、静岡木工の社名は出ていません。ヒントは「静岡の会社」「神棚」くらいです。
でも、消費者は放送後にわざわざ検索してまで、静岡木工にたどり着きました。つまりニーズがあったのです。隠れていた需要が、テレビ放送で一気に現れました。
「神棚がほしかったけど、あきらめていた人が、日本全国でこんなにいたのか」。
改めて、杉本は、神棚の可能性を感じました。平成26〜27年の頃のことです。
東京からの問い合わせも多くありました。「どこか、都内で見られるところはないですか?」。
でも、モダン神棚は卸しているところもありませんし、自社社内にすら、展示品がなかったほどです。杉本はお客さまに謝りました。
カタログを急いで作り、インターネットを見られない方には送付しました。
静岡木工は、しばらくはその対応に追われました。
注文は当日とその翌日が圧倒的に多かったのですが、その後もなだらかに問い合わせがあったり、他のテレビ局からの取材があったりする日々の中、ある神社から電話がありました。



遠江一宮小國神社との縁

「遠江一宮小國神社からの電話。話すまで、正直、ドキドキしました」
神社から贈られた「不易流行」の言葉が自信に。変えてもいいもの・いけないもの

 電話は、今も深いお付き合いがある小國神社からでした。「テレビで観ました、神棚を見せてほしい」と言われ、杉本は一瞬身構え、やや緊張しました。
モダン神棚はお札が露出し、アクリル板で挟んだりするものもあり、神社の考える神棚とは違う部分があります。神社さんから見てこの神棚はどう思われるのだろう。
しかし、小國神社の宮司はモダン神棚を見て、「すごくいいこと」だと話し、静岡木工の姿勢に肯定的でした。
「これからはむしろ、こういう神棚も必要だ」と。
神棚を家におまつりするのは、神さまを敬い、日々の安寧を願うため。
形は変われど、神さまへの敬意と感謝、まつる方の心が大切なのだと。
静岡木工も、神棚とおまつりする方のことを常に考えています。神棚もでき得る限りの材料を使い、国内の工場で丁寧に作っています。お札が滑り落ちないように溝を設計し、破魔矢を納める穴を設け、細部まで考え抜いて作ったものです。モダン神棚を見てすぐ、丁寧に作られた神棚であり、まつる方に寄り添った形であることを色眼鏡なく理解してくださったようでした。
小國神社の宮司は「不易流行」という言葉を口にしました。
変えてはいけないものと時代によって変えていいもの。
お札を丁寧におまつりするという気持ちは変えてはいけないけれど、形やおまつりの仕方は時代によって変えてもいいのではないか、と。
静岡木工の神棚に対する考え、お客様との対話から生まれたものづくりの理念は、間違っていなかった。温かく背中を押された気持ちになりました。

かみさまのたな

「今の暮らしに馴染むような神棚を作りたい」
GOOD DESIGN賞2016を受賞

 心強い言葉を胸に商品開発はさらに進みます。静岡市在住のデザイナー「花澤啓太」に神棚のプロダクトデザインを依頼します。
「今の暮らしにも馴染むような神棚を作りたい」会社の想いや神棚の実績、モダン神棚の状況を説明してデザインを依頼、できた神棚のデザインに驚きました。「こんなにシンプルでいいのか?」しかしそんな不安はデザイナーの説明で吹き飛びます。
これは神棚ですが
今までのものよりも少し優しい形をしています。
これからの暮らしに合うように
神様と近くにいられるように
あともう少しの「親近感」をデザインしました。
毎日近くにいて、毎日会える。毎日に感謝できる。

ひのきの温かみと丸みの加工がとてもやさしく感じられ、まったく新しい神棚が誕生しました。
GOOD DESIGN2016を受賞したのもあり、今までの客層にはなかった若い女性から「かわいらしくて素敵」と購入が増えたのには本当に驚きました。

かみさまの線

新しいデザイン神棚の提案
GOOD DESIGN賞2018を受賞

 2年後、再度花澤デザイナーに神棚のデザインを依頼します。そしてできたデザイン神棚「かみさまの線」
線で輪郭をシンプルに構成したこの神棚は
空間を圧迫することはありません。
しかしながら、そこに暮らしとの境界線はしっかりと残り
感謝の気持ちを忘れることはないでしょう。
優しく揺らぐモビールのような。
凛と立つオブジェのような。
かみさまのたなとは対照的なデザイン、神棚に向き合う時の少しの緊張感を形にしてくれました。マンション用の神棚にとても評判がよく、販売当初から反響がありました。
こちらの神棚もGOOD DESIGN2018を受賞。
「暮らしが変わっても想う気持ちは変わらない」
杉本は、不易流行の言葉を胸に刻み、今も新たな商品開発に邁進しています。

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